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ひらい めぐみ
元遊郭の「つたや」を活用した期間限定のアートイベント。「GLOUND ATAMI 2025」&「つたやフリーマーケット」レポート
10月17日(金)から10月26日(日)の間、中央町の元遊郭「つたや」でアートイベント「GLOUND ATAMI 2025」が開催されました。
中央町は、かつて「糸川花街」と呼ばれていた熱海の花街。熱海銀座商店街から糸川を渡ったあたりに位置し、戦前は客を呼び込む女性の姿が見られたエリアです。昭和33年に売春防止法が全面施行されて以降は多くが飲食店へと変化し、当時のまま現存している妓楼建築はくわずかとなりました。
2023年ごろ、マチモリ不動産に「つたや」が売却されたという知らせが。これまで多くの元妓楼建築が取り壊されてきた経緯を思うと、この建物も同じように失われてしまうのではないか…そんな不安がよぎるなか、地域の方を通じて新しい所有者と話す機会をいただき、意外な言葉を耳にします。
「この建物は残した方がいいと思う。文化的にも貴重なはず。」
かつて花街として栄えた建物の歴史と価値を大切にしたいという想いに共感し、マチモリ不動産で建物を借り受け、共用部分を管理しながら、各部屋を個別に貸し出す形で関わることに。
そして、いくつもの出会いや協力を経て、2025年にアートイベントの会場となった「つたや」。プロジェクトリーダー髙須賀さんは、築70年の空き家を改装し、熱海の新たな拠点として、「バーコマド」を開業し、不定期で「怪談イベント」も開催されています。現存する数少ない元遊郭の「つたや」を残したいという思いから、熱海の新たな拠点としてほぼ廃墟状態だった建物をプロデュースすることに。
今回、熱海市を舞台に展開するアートプロジェクト「GLOUND ATAMI」が主催する初のイベント「GLOUND ATAMI 2025」では、全国から集まった若手作家や熱海に縁のある作家による作品展示やワークショップが行われました。
市川大翔さんの「Light Trace」は、「空間と記憶の輪郭」を主題に、「つたや」に残る多様な“線”を実寸でなぞり、ネオン管として光を灯した作品。
2階では、市川さんが実際に建物をトレースする姿も映像として公開されていました。
かつてこの地で使われた「赤線」「青線」の言葉に呼応するかのように重なるネオンの代表色である赤と青。煌々と光るネオンの灯りが、当時のままの趣が残る小上がりを照らしていました。
グラフィックデザイナー・古物収集家である永井ミキジさんの「個物」は、壁一面に古物が並べられた作品。
懐かしい!と思うものから、いったいいつ誰が作ったんだろう……?と心くすぐられるユニークな雑貨までが所狭しと並んでいました。ちなみにこれらは購入可能で、毎回展示する作品は入れ替えているのだとか。
ひとつひとつの古物が一同に集まることで生まれる一体感や迫力を全身で感じました。
水場を中心に穢れ、汚れ、恐怖症などをテーマとして制作を行う小林絵里佳さんの「コンタクトゾーン」は、かつて浴場だった場所すべてを活用した作品。
目を凝らしてみると、タイルの目地の部分が石鹸で埋められています。
熱海はかつて進駐軍が多かったと推測される地域。進駐軍からプレゼントの一つとして贈られていたとされるLUXの石鹸を配置することで、旧つたやで続いていた暮らしが、現在のわたしたちにとってこの空間や時間が地続きであることを示唆しています。
記録には残らないような他愛のない会話、階段の足音、風呂に立ち上る湯気。今では歴史として語り継がれる時代にも、わたしたちと変わりない営みがあったことを想起させてくれる作品でした。
2階では、静岡県内の各地から集まってきた計5店が出店するフリーマーケットを開催。
以前取材させていただいた古着屋の「静電気」さんのほか、古書や古物を扱った個性豊かなお店が集結しました。
1か月前は終わりの見えない残暑が続いていましたが、すっかり秋らしい季節に。秋冬に活躍するアウターやスウェットなどが並んでいました。
「クウカンノトリ」さんは、約100年前の本や、スズでできた器など、30〜40年の間集めてきた日本の骨董品を販売。
骨董品を展示するレイアウトも美しく、ひとつひとつに愛着を持たれている様子が伝わってきました。
山仲ブックスさんは、沼津で古本をはじめ、印刷物、昭和レトロものを販売しているお店。
今回は熱海や近辺にゆかりのある本や、手のひらに収まるサイズの豆本など、ついつい手に取りたくなる紙ものが販売されていました。
各出店者の部屋によって意匠が異なり、山仲ブックスさんの部屋は茶室、数寄屋建築でよく使われる網代天井になっています。このほかにも石を埋め込んだ廊下や傘を模した天井など、手の込んだ装飾を眺めることができ、建物そのものも見応えのある空間でした。
展示作品をゆっくりと鑑賞する人、フリーマーケットで思いがけない出会いを楽しむ人。その光景のなかに、熱海に新しい賑わいの場が生まれていくのを感じました。
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フィクションの物語ではなく、実際に、かつてわたしたちと同じように暮らす人々の中で息づいていた「つたや」。
「旧つたや」のさらなる活用を目指し、再生プロジェクトが進められていきます。熱海に訪れる方も、近隣にお住まいの方も、ぜひ今後の動向を温かく見守っていただけたらうれしいです。












