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メアリー
熱海のおとなり、「伊東」をあるく
熱海市の隣に位置する、静岡県伊東市。
伊東温泉は熱海温泉と地理的にも近く、海に面した温泉街という点で共通していますが、街のまとう雰囲気は熱海とはちょっと異なるもの。
今回はそんな熱海のおとなり、伊東の市街地の街並みや、素敵なお店をご紹介します。
熱海と伊東を繋ぐ公共交通は、JR伊東線のほか、熱海港からの高速ジェット船。
どちらも所要時間は30分弱と、気軽に出かけることができます。
▲熱海港からは、伊東経由、伊豆大島行きのジェット船が毎日運行。期間限定でおトクな切符が販売されることも◎
普段暮らしている熱海の街並みも、海の上から眺めてみると、何だか新鮮です。
海を臨む斜面に建物が広がる景観、なるほど、時に「東洋のモナコ」と称されるのも頷けます。
熱海も伊東も市街地がぎゅっと狭い範囲にまとまっており、歩いて散策を楽しめる街ですが、坂の多い熱海に比べて伊東の市街地はフラット。
JRの駅から海までの距離も近いので、電車を降りて歩き出すとすぐ、目の前に水平線が見えてきます。
▲JR伊東駅前
アートに囲まれ、海辺を歩く
伊東を訪れる度に足を運ぶのが、「なぎさ公園」。
伊東市在住の彫刻家・重岡建治氏の作品が点在する、海辺の公園です。
ここで、遠く海の向こうを眺めながら、しばらくぼーっとしているのが好きです。
熱海にも海辺に親水公園がありますが、なぎさ公園にいる時のほうが何も考えずにいられる気がします。彫刻作品に囲まれて座っていると、自分もそのひとつになったかのように思えてくるからでしょうか。
重岡氏の彫刻作品はなぎさ公園以外にも街のあちこちに展示されています。これらを見つけながら歩くのも楽しいのです。
さて、海へと注ぐ松川沿いの遊歩道を進みながら、市街地の散策に移ります。
伊東の街並みを代表する建物といえば、こちら「東海館」。昭和初期から残る純和風の旅館建築で、現在は内部を見学できる観光施設となっています。
土日祝日には、館内の日帰り温泉に入ることもできます。
3階建ての建物は見応えたっぷり。
部屋ごとに異なる障子などの細かな意匠に目を奪われます。
東海館、館内を回っていると何処からか「良い匂い」がしてきました。
匂いの出所は、東海館の正面に店を構える「うなぎのまとい」。
▲鰻本来の旨みを引き立てる、あっさりとした味付けが美味…!
歴史ある建物が好きな方には、「木下杢太郎記念館」もおすすめしたい場所です。
伊東出身の医学者にして文学者、木下杢太郎の生家が移築され、彼の経歴や作品、私物などが展示されています。明治40年に建てられた、伊東市に残る最古の木造建築だそうです。
街を歩けば、喫茶店にあたる
定期的に伊東を訪れる一番の目的は、喫茶店巡りです。
熱海のレトロな喫茶店はメディアでも取り上げられ、連日賑わっていますが、喫茶店の数では伊東も負けていません。
駅前から海辺に向かって広がる商店街の中にも、朝早くからオープンしているお店がちらほら。
▲アーケードの床に描かれた味わい深いイラスト
「スイートハウスわかば」は、伊東の喫茶店の代表格といえるでしょう。熱海に住んでいる方の中でも言わずと知れた有名店かもしれません。
名物はソフトクリーム。私の知人の多くも、今まで食べた中で最も美味しいソフトクリームとして、この店の名前を挙げています。
なかなかボリューミーなのですが、甘さ控えめで口当たりさっぱり、ぺろりと食べられてしまうのです。
「わかば」の他にも、古き良き店構えの喫茶店が数多く残る伊東の街なか。街を歩けば喫茶店にあたる、といっても過言ではないかもしれません。
地元の方に長年愛されているお店は、一見さんではちょっと入りにくく感じてしまうこともあるのですが、今後も少しずつ開拓していきたいところです。
▲一風変わった「しょうゆカルボナーラ」が人気のヤマモトコーヒー。こちらの店内にも重岡氏の作品あり。
松川の傍にある自家焙煎珈琲店「珈ノ鳥」もお気に入り。
産地や焙煎度合いも様々な豆が取り揃えられており、浅煎りの豆の中にはまるでフルーツティーのような風味がするものも。
長らく深煎り派だった筆者に苦味だけではないコーヒーの魅力を教えてくれたお店のひとつです。
ローカルの日常、共同浴場にお邪魔してみる
熱海と伊東、どちらも温泉街として知られていますが、大きな違いは「共同浴場」にあると感じます。伊東はコンパクトな市街の中に、共同浴場がなんと10箇所。いずれも地域の方々の憩いの場となっています。
熱海もかつては各地に共同浴場があったそうですが、今はその数も少なくなってしまいました。日帰り温泉に入れるホテル・旅館も幾つかありますが、気軽に毎日通える共同浴場の存在は貴重です。
そういった熱海と伊東の温泉カルチャーの違い…のようなものを味わいたくて、伊東に来る都度、違う共同浴場に立ち寄るようにしています。
▲JR伊東駅前の「子持ち湯」
お土産も忘れずに
温泉にも入ったところで、この日はそろそろ帰路に着きます。
美味しい居酒屋や歴史あるバーなど、夜も楽しめる伊東ですが、そちらはまた別の機会に深掘りしましょう。
伊東みやげで個人的に外せないのは「梅家」の「ホール・イン」。
ゴルフボールを模したお菓子で、黄身餡を包んだお饅頭が、ホワイトチョコレートでコーティングされています。漫画「ちいかわ」にも登場して話題になったとか。
▲和洋折衷の味が、お茶にもコーヒーにもよく合う。熱海のマックスバリュにも時々入荷あり。
個人的に伊豆周辺の銘菓の中でも一番!と思っており、他の地方へのお土産にはまずホール・インを持って行くようにしています。
▲駅前の商店街「湯の花通り」にある梅家本店
余談ですが、「湯の花通り」の七福神のキャラクターが可愛くて好きです。毘沙門天がサーファーでかっこいいです。
最後に、伊東駅構内「祇園」で駅弁を買って帰ります。
名物のいなり寿司、しっかり甘いお揚げの味が、歩き疲れた体にじんわりと沁みました。
今回ご紹介した海辺の市街地だけでなく、伊東は山側にも個性的な観光スポットが集まっています。
すり鉢状の噴火口に沿って歩ける「大室山」や、たくさんの動植物を観察できる「伊豆シャボテン公園」。JR伊東駅前からバスで行くことができます。
▲シャボテン公園の温泉でくつろぐカピバラたち
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熱海のおとなり、伊東。熱海から電車でも車でも、あるいは船でも。ふらりと遊びに行ける距離感が嬉しい街です。
温泉観光地として古くから栄えてきた場所でありながら、現代の観光地として完全にアップデートされるわけではなく、ともすれば時が止まっているかのような印象を受ける、商店街や路地。
そんな街並みに、10年近く前、初めて熱海を訪れた時のことを思い出します。時代の影に隠れたような街の姿に、不思議と安らぎを覚えたものでした。
観光で街が発展していくのは喜ばしいこと、けれどその大きな潮流の中で、熱海の昔ながらの魅力も忘れずに、守っていきたい。伊東を訪れる度、そんな思いが強くなります。
おとなり同士の熱海と伊東。古さと新しさが共存する魅力的な温泉観光地として、どちらも大いに盛り上がっていくといいな、と思うのでした。