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ひらい めぐみ
ほかでは出会えない、個性的な古着が並ぶ。地元の人たちの憩いの場にもなっている古着屋兼カフェ「静電気」
駅前の商店街を抜けて、サンビーチまで向かう下り坂の途中にある、「静電気」と書かれた看板。そのすぐそばの階段をのぼった先に、2024年の9月にオープンした古着屋「静電気」があります。
オーナーの小島さん、実は古着屋での仕事は未経験。こちらの物件との出会いを機に、会社員を辞めて独立し、「静電気」を開業されました。「静電気」では古着や雑貨を購入できるほか、カフェスペースでコーヒーやお酒をたのしむこともできます。
どういった経緯で古着屋をはじめることになったのか、開業するまでの道のりからオープンしてからのことについて、同席してくださったパートナーのSさんも交えてお話をうかがいました。
静電気を開業するまでは、ジムのトレーナーをしていた小島さん。そろそろ転職をしようかと考えていた矢先、パートナーであるSさんがこの物件を見つけて、教えてくれたのだと言います。
小島さん「物件の内見をするまでは、仕事を辞めたばかりで転職活動中でした。その頃から誰かに雇われて働くよりも、自分でなにかをやったり、お店を持ったりすることをしたいなとなんとなく考えてはいましたが、当初は一回転職して、その後にはじめてもいいかな、という気持ちでしたね。そんな時期に、パートナーのSちゃんがこの物件を見つけてくれて」
Sさん「マチモリ不動産のサイトを見ていたら、面白い物件がある!と思ったんです。二人でその日の夜には内見の申し込みをして、一度見に行くことにしました」
▲募集時、改装前の様子
実際に内見へ行ってみると、古さを感じつつも、改装したら良い場所になりそうだと手応えを感じたお二人。駅から徒歩7分というアクセスの良さ、賃料が抑えられていること、そしてなによりSさんの後押しが、契約の決め手となりました。
小島さん「Sちゃんのセンスをすごく信頼しているので、彼女が『ここはいける!』と言うなら大丈夫だろうな、と。また、大工の三宅さんとお話ししていくうちに具体的なイメージが湧いてきて、転職するよりもここでお店をやる方が面白いだろうなと思うようになりました」
自然と思い浮かんだ「古着」と「飲食」がお店の柱に
場所が先に決まり、ここでなにをやろうか……と考えた末に思い浮かんだのは、「古着」と「飲食」でした。
小島さん「いつから服が好きになったのか明確には覚えていないんですが、親が服好きだったので、自然と影響を受けていたのかもしれません。自分で自由にお金が使えるようになった大学生の頃ぐらいから、都内の公園で開かれているフリーマーケットに行くようになり、そこから古着にも興味を持つようになりました」
小島さん「だからと言って、古着屋をやろうとか、古着の仕事に就きたいと考えたことはなかったんです。大学も管理栄養士の資格がとれるような学部でしたし。ただ、いざお店でなにをやろうかと考えてみたときにぱっと浮かんだのが古着で。管理栄養士の資格を持っていて料理をするのも好きだったので、古着とカフェを掛け合わせた空間なら現実的にできるんじゃないかな、と考え、今の形態に辿り着きました」
無事に契約が進み、小島さんは大工の三宅さんと一緒に工事をしながら、どのようにしていくかその場で決めていったと言います。
小島さん「崩してみないと中がどうなっているかわからない部分ばかりだったので、設計図は引かずに、ある程度『やること』と『やらないこと』を決めておいて、工事しながら都度調整しながら進めました。途中、三宅さんが別の現場で離れなければならなくなり、真夏にクーラーがないなか一人で作業したり、当初予定していたよりもキッチンが狭くなったりと、大変なこと、想定外のことは多々ありましたが、最終的にはなんとかかたちになって良かったです」
観光客だけでなく、地元の人たちが集う憩いの場にもなっている
お店の外観と内観は、台湾や沖縄、東南アジアの建物を参考にしているそうです。
小島さん「当初は古着を並べているところを洗練された空間にする予定だったのですが、工事をしていくうちにだんだんコンセプトも変化していって、最終的には沖縄や台湾、東南アジアの屋台や建物を参考に、外壁をトタンにしたり、古い建具を使ったりしています。ふらっと入りやすく、長く滞在してもらえるよう、屋台のような雑多さと、洗練されたカフェの両方の要素を取り入れました」
▲Before / After
店内に並ぶ古着はほかでは見ないような服ばかり。セレクトにはひとつのある基準が。
小島さん「ほかではあまり見たことのないもので、自分自身が着たいなと思う服を買い付けるようにしています。1930年代の日本の作業着や、日本酒の『白菊』のデザインが入ったシャツなど、国産の古着を中心に扱っています」
もともと古着屋が少なかった熱海。地元の高校生や大学生から、古着屋ができたことを喜ぶ声も多く寄せられています。
小島さん「古着や若い人たち向けの洋服を買える場所があまりなかったので、きっと需要はあるだろうなと感じていました。実際に熱海に住んでいる学生の方が来て『古着屋できたんだ』と喜んでくれている様子を見ると、純粋にお店をはじめて良かったなと思います」
お店を営業しはじめて驚いたのは、お客さんの層の幅広さだったと話します。
小島さん「熱海には、現役時代は東京でバリバリ働いていて、引退してから移住してきたり、別荘を持っているおしゃれな年配の女性が多いんです。そういった方たちのコミュニティのなかで新しいお店や洋服屋さんの情報をやりとりしているようで、人づてでうちの店に足を運んでくださる女性もけっこういらっしゃいます」
小島さん「カフェスペースを作ったことも、立ち寄りやすい理由になっているのかもしれません。お店をはじめるまでは、若い人たちがたくさん来てくれるイメージでしたが、蓋を開けてみれば子どもから年配の方まで寄ってくれて。もともと地元の人たちが集える場所にしたいな、と考えていたので、一年足らずで地元の人たちに受け入れてもらえるようになったのは嬉しいですね」
開業を機に熱海へ移住。歩けば歩くほど魅力が広がる街
実はこのお店を構えるまで、熱海には来たことがなかったという小島さん。「静電気」がオープンしてからも3か月ほどは神奈川から通っていました。
小島さん「僕自身は住む場所に対して特にこだわりはなかったんです。強いて言えば職場に近い方がいいなと思うくらいで。だから、ここでお店をはじめることで熱海に移住することにはそこまで抵抗はなかったですね。買い付けた服を運ぶのにどうしても車が必要だったので、駐車場付きで自分たちの条件に合う物件を見つけるのは少し大変でした」
熱海に移住して約半年ほどたった今、最初と比べると街のイメージが少しずつ変わってきているそうです。
小島さん「住みはじめの頃はスーパーが少なかったり、土日は観光客の人たちが多かったりと、やはり観光地だなと感じることが多かったですが、最近は上の方に行けば行くほど廃墟があったり、知らない道や坂道、階段がたくさんあることに気づいて、歩けば歩くほど迷路みたいで面白いなと思います(笑)。車があると真鶴や湯河原のほうにもすぐ出かけられるので、最近は周辺の街にも行動範囲を広げて楽しんでいます」
Sさん「熱海は『圧倒的なプレーヤー不足』と言われているんですが、移住してからより一層、そのことを実感しています。事業を支援する制度もたくさんありますし、物件を決めてから事業を考えることもできなくはないんです。私たちのお店のことを知って、『意外とできるんだ』って思ってくれたら嬉しいですね」
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取材にうかがったのは夏休みシーズンに入る前の6月。「今日はこんな感じで落ち着いていますが、意外とちゃんと利益は出ているんです」と笑いながら話すSさん。最近良い問屋さんと出会えたことで、売上も順調なのだそう。
▲先日開催された、オールナイトイベントの様子。飲み物を片手に、みなさん楽しそうです。
ビジョンを持ちつつ、お客さんの心に刺さる商品の目利きをする小島さんと、お店を継続していくための経営的視点を持つSさん。お二人のバランスのとれた関係が、このお店の居心地の良さを作っているのだなと感じました。
2025年7月からは、骨董品を扱う「クウカンノトリ」のポップアップがスタート。週に一回新商品が入荷しますので、ぜひお気軽にお越しください!
▼「静電気」公式Instagram
https://www.instagram.com/seidenki_shop














