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メアリー
Vol4. 熱海に暮らす。自然と生きる。 海と山と温泉と共に、豊かに暮らしていくための防災マニュアル
海あり、山あり、温泉あり。豊かな自然に抱かれた別荘地としての歴史を持ち、近年も首都圏からの移住先としていっそう注目を集める熱海。
熱海で暮らす、熱海で事業を始める。そう考えた時に、避けては通れないのが、自然災害のリスクです。
熱海での災害をどのように考え、想定し、備えれば良いのか。
第4回目のテーマは、「ペットと防災」。
ゲストは、被災ペットの支援活動を行っているNPO団体「日本レスキュー協会」のトレーナー・辻本郁美さん。
辻本さんは、伊豆山の土石流災害の際には現地で支援活動を行われた、熱海との関係も深い方。
今回は辻本郁美さん(以下、辻本)、マチモリ不動産代表・三好明(以下、三好)の2名で、熱海やその他の市町村の事例も交えつつ「ペット」という切り口から地域の防災について考えます。
ペットを守り、飼い主さんを守る、辻本さんのお仕事
三好「まずは辻本さんの活動の内容について、詳しく伺ってもよろしいでしょうか。」
辻本「我々の活動の目的は、ペットを飼っている方が、災害が起きてもペットと離れ離れにならず、継続して飼い続けられること。そのために、飼い主さんたちが避難所でトラブルに巻き込まれず、快適に過ごせるように支援を行っています。」
三好「災害が発生するとすぐ、被災地まで向かうのですか?」
辻本「大規模災害の場合は、現地との調整後、即時出動です。都道府県・市区町村といった行政機関に連絡し、こちらが提供できる支援内容をお伝えした上で現地入りします。例えば、能登半島地震の発生は夕方でしたが、当日中には現地に到着していました。」
三好「現地入り後は、どのように動いていくのでしょうか。」
辻本「被災直後は行政で避難所の状況を把握できていない場合が多いので、まずは避難所を一軒ずつ回って状況確認をします。また、現地の社会福祉協議会とも調整し、災害ボランティアセンターと情報共有、連携を行っていきます。」
三好「ペットと一緒に避難している人、避難できていない人がどの程度いるのか、避難所で直接確認するのですね。」
辻本「伊豆山の時は避難所がホテルで、そもそもペットが入れない建物でしたので、情報収集には苦労しました。」
三好「熱海は次に災害が発生した場合もホテルが避難所になるでしょうから、同じことが起こらないよう備えが必要ですよね…。」
辻本「ペットと一緒に避難できる仕組みづくり、そして飼い主さんの自助。この両輪が不可欠です。我々は仕組みづくりのサポートと、飼い主さん向けの講習会や情報発信、両方にアプローチしています。」
三好「環境省が、人とペットの災害対策ガイドラインというのを発表しているんですね。」
出典:環境省ホームページ (https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3009a.html)
辻本「そうなんです。ただ、避難所を管轄する行政部署の人たちが、ガイドラインに基づいて具体的に何をしたらよいかわからない、というケースが多い。なので、各避難所で仕組み、ルール作りをする必要があるということをお伝えし、マニュアルの例などを提供しています。」
ペットと避難できる仕組みづくり、飼い主それぞれの自助。どちらも必要!
ペット防災の先進地域
三好「ペット避難の対応が進んでいる自治体は、どのような取り組みを行なっているのでしょうか?」
辻本「実際に、ペットと飼い主が同じスペースで過ごせるような避難所の仕組みを整えている自治体は増えています。そのような自治体では、避難所の情報をHP等で発信して周知していたり、実際に避難所となる施設でペットと一緒に参加できる避難訓練の実施や、場所の確保・ルール策定・飼い主への周知が揃っています。能登地震以降、全国の自治体で具体的な取り組みが進められている印象です。」
三好「先進的な自治体と、そうでない自治体の違いはなんでしょう?」
辻本「これに関しては、担当者レベルの意識、取り組みの違いですね。台風などで頻繁に避難指示が出る地域など、そういった自治体はペット避難に関しては先進的な取り組みを行なっている印象を受けます。」
三好「ペットフレンドリーな自治体であることで、人口流入などの具体的な効果は現れているのでしょうか。」
辻本「そういった検証はまだされていませんが、ペットと防災は関心の高い領域でありながら、実現できている自治体は少ない。なので、前面に押し出せる魅力になると思います。」
三好「先日の熱海市議会でもペットとの避難について質疑がありましたが、はっきりとした方針は示されませんでした。限られた予算の中で、いかに優先順位を上げていくかという課題もありますよね。」
(2024年11月27日、熱海市で「災害時にペットと一緒に避難する「同行避難」の方法を学ぶ研修会」が開かれました。)
辻本「ペットのこと、となると後回しにされがちなのは事実です。けれど、そもそも『ペットが一緒に避難できる状態でないと、飼い主が避難できない』ということを認識してもらう必要があると思っています。過去の災害では、ペットと避難できる仕組みが整っておらず、多くの飼い主さんが車中泊や、崩壊した家屋に留まることを選択せざるを得ない状況でした。車中泊の期間が長くなるほど、災害関連死の危険は跳ね上がります。このことを我々は災害対策本部に訴え、そのあとペットの避難所ができました。」
三好「なるほど…!!私、大きな誤解をしていました。そもそもこれは、ペットの問題ではなく、人の問題でもあったんだ…!」
辻本「過去の災害では、ペットが自宅にいるために避難しなかった方が、ペットと共に浸水で亡くなったという悲しいニュースがありました。目指すべきは、ペットの有無にかかわらず、ためらわず避難できるということ。ペットがいるから避難できない、という選択をさせてはいけないのです。」
避難所のペット受け入れは、ペットだけの問題にあらず。ペットと暮らす住民の安全を守ることに繋がる!
熱海では、何から始めれば良いだろう?
三好「先ほど、先進的な自治体では場所・ルール・飼い主への周知、3つが全て整っている、というお話でしたが、熱海には今どれもなく…何から始めていけば良いでしょうか。」
辻本「始める順番は、どれからでも良いと思っています。避難所の中でペット世帯用に使える場所を決める。どういうルールが必要か、については我々で雛形を提供できます。まずはイベント的に避難訓練からやってみるのでも、場所やルールを考えるきっかけになります。」
三好「どれも、難しいことではないように聞こえます。心理的ハードルが高くて今まで進んでこなかった部分が大きいんでしょうね。」
辻本「そうですね。場所に関して言えば、ペットだけ屋外など、飼い主とペットが分けられてしまうと飼い主は避難しない傾向にあるとわかってきています。ぺット同伴の部屋を用意し、ブルーシートを敷けばそれでOK。ペットが同じ部屋なら、部屋を綺麗に保つ責任を飼い主さんに任せられる、という運営上のメリットもあります。」
三好「そもそも避難所は利用者自身で運営していくのが原則ですが、熱海のようにホテルが避難所だと尚更、お客様意識になってしまう場合も…。確かにペットと避難する場合には、自分たちでお世話をする分、その原則を理解してもらいやすいはず。ペットをきっかけに、避難生活は自分たちでやる、の意識が住民全体に浸透すると良いですね。災害時に地域でリーダー格として動くことになるのはおそらく、働き世代の人たち。その世代にまず自主防災の意識を持ってもらうことが大切なのかもしれません。」
ペット避難の3つの要素「場所・ルール・飼い主への周知」。できるところから、始めてみよう!
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第3回のテーマの中で生まれた、「ペットと暮らす人は、どのように災害に備える必要があるだろう?」という疑問。ペットを飼っていない私は、熱海にはペットと暮らす人が多いからこういうことも知っておいた方がいいよね、と、どこか他人事のように捉えていました。
しかし、辻本さんのお話を聞く中で、「ペットと防災」というテーマがペットだけの問題ではなく、その地域に暮らす人の安全を考える上で避けては通れない問題であるということに気付きました。
▲お話しを伺った後、スタッフは防災グッズを強化
また、ペットの避難の仕組みを整えることは、ペットのいる家庭だけでなく、地域住民全体が「避難生活を自分たちで運営していく」という正しい意識を持つきっかけになるかもしれないと感じました。
ペットと暮らせる物件をお預かりすることも多い、マチモリ不動産。実際の暮らしが始まる前にオンライン、またはリアルで防災訓練をやってみて、熱海でペットと暮らすために備えておくべきことを考えられるような取り組みも実施していきたいと思います。
第5回目は、熱海で暮らしている方・熱海と東京を行き来してる方・定期的に熱海に観光に訪れる方…など、さまざまな属性の方と防災について話し合う「防災座談会」のレポートをお届けします。
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