
この記事を書いた人
メアリー
あやしげな闇夜に、華ひらく物語。『熱海怪談Vol.4』レポート
以前の記事でも取り上げた、熱海の小さなバー「バーコマド」。
地元の方から観光客まで、幅広い人々が集う店である。
▶︎ 前回の記事:熱海の”裏”聖地となるか?バーコマド
こちらのお店はバー営業だけではなく、不定期にイベントを開催している。
その中でも、回数を重ねてきたのが怪談イベントだ。
近年、YouTubeなどの動画・音声配信サービスにおいて怪談は人気のコンテンツである。リアルの場で怪談を語り、聴くイベントも首都圏を中心に毎日のように開催されている。
バーコマドがある中央町は、小さな料理店やスナックが集まるエリア。一帯はかつて、色街として賑わっていたという。バーコマドを含め、その当時の面影を忍ばせる建物が、この町独特のどこか妖しげな魅力を醸し出している。
2023年から開催されてきたバーコマド主催の怪談イベントは、町や建物のまとう雰囲気と、怪談というコンテンツの親和性の高さを最大限に活用したものだ。
当初は店舗の2階を会場としていたが、より広い中央町の将棋道場に場所を移し、2025年3月の今回は第4回目の開催となった。
『熱海怪談』と題するこちらのイベントは、毎回著名な怪談師の方々が出演されている。
今回の怪談師は2名。
夜馬 裕氏は、2023年の第1回目から出演されており、既に熱海との縁も深い方。日本一の怪談師の座を競う「怪談最恐戦」の優勝経験者で、”怪談界の帝王”との呼び声も高い。
川奈 まり子氏は、今回はじめて熱海での怪談イベントに出演。ルポルタージュ的手法で怪異を取材し、作家としても多数の著作を持つ方である。
▲ 熱海在住のグラフィックデザイナー maya氏によるイベントフライヤー
2025年3月16日、雨がしとしとと降り続く、肌寒い夜。
観客でいっぱいになり、期待と熱気に包まれる将棋道場。
そして、2名の怪談師が登場。
以前より親交の深いお二方ということで、和やかな雰囲気でイベントがスタートする。
怪談の内容について、詳しく説明することは差し控えたい。
怪談イベントはオンラインで配信される場合も多いが、熱海怪談は配信なし、完全にクローズドの空間である。
そんな場だからこそ話せるような、ディープなお話が目白押しであった。東海地方や静岡県に関係する内容も多く、熱海の怪談イベントという特色が現れていた。
怪談と聞いて皆様がイメージされるのはやはり、おばけの話だろうか。
熱海怪談の中で語られていくのは、幽霊や怪奇現象のみならず、生きている人間の異常性や残虐性。語りを通じて聞き手は、さまざまな種類の恐怖、驚きを喚起される。これこそが、現代の怪談の幅広さであり、奥深さなのだろう。
また、出演者お二人の気の置けない会話や、折々で挟み込まれる余談で笑いの起きる場面もあった。ただ怖いだけではなく、緩急ある語りの面白さで、3時間という時があっという間のように感じられた。
なお、会場では軽食の販売もあり、中華料理の「大一楼」、イタリア料理の「伊太利an」と地元で愛されるお店の料理を味わいながら、怪談に聴き入ることができた。イベントを通じて中央町全体を盛り上げたいというバーコマド店主、高須賀さんのこだわりである。
終演後は、バーコマドにて打ち上げが行われた。
打ち上げでは、出演者と観客が同じテーブルで語り合う。この場では、観客側から、自身の体験した怖い話、不思議な話を怪談師に語ることもある。
大規模なイベントではないからこそ、出演者と観客の距離が近くなる。熱海ローカルで開催しているがゆえに実現できる、貴重な空間なのかもしれない。
熱海怪談に参加される方の層は、幅広い。
これまで怪談を生で聴いた経験がないけれど、近所だから参加してみたいという、熱海の地元の方。静岡県内、関東など他県から熱海に足を運ぶ怪談ファン。熱海に観光で訪れ、街中に貼ってあるイベントのポスターを見て当日参加を決めた方。4回目にして、リピーターの方も複数いらっしゃった。
首都圏からは日帰りでも来ることができ、また観光地なので、宿泊すればイベントだけでなくグルメや温泉なども楽しめる。熱海のロケーションの良さが、このイベントに固有の多様性を生み出しているのではないだろうか。
バーコマド店主、高須賀さんは言う。
「怪談会などのイベントを通して、熱海の夜を知ってもらう機会をもっと作りたい。熱海は多面性のある街で、昼と夜の顔はまったく違う。怪談会に限らず、夜だからこそ楽しめるイベントをこれからも企画して、夜の街を楽しんでくれるような観光客をもっと増やしたい。」
今後も怪談イベントは、年2回程の頻度で開催していく予定とのことである。中央町、そして熱海の魅力を伝えるイベントとして、これからも盛り上がりを見せてくれることだろう。
熱海怪談の盛況ぶりを見ていると、魅力的な温泉観光地として多様な人々が集まる熱海は、新しいことに挑戦する余白も、挑戦を受け入れる懐の深さも備えているように感じられる。
熱海怪談に限らず、熱海で一風変わった催しが今後も数々、華ひらいていくことを願う。
————–
バーコマド
静岡県熱海市中央町5-9
営業時間:20:00〜24:00
定休日:火・木・日
Instagram: @komado_atami