
この記事を書いた人
メアリー
感性のままに、自由に大胆に。熱海で感じる、「非日常」とアート。
熱海は芸術作品に触れられる機会が多い街だと感じます。
観光名所としても人気のMOA美術館や熱海山口美術館。2024年で第14回を迎え、毎年の恒例となったアート・イベント「ATAMI ART EXPO (熱海芸術祭)」など。
温泉観光地である熱海は、一方でアーティストやアートに関心のある人々の集まる街としても注目されています。
そんな熱海で、私が魅力的な絵画作品に出会ったのは、桜町の今宮神社で11月に開催される「今宮えびす市」に訪れた時のこと。
絵の具の鮮やかな色使い、緻密に組み合わされた貼り絵。
展示されていたのは、熱海市にある障害福祉サービス事業所「陽光の園」の利用者さんが制作された作品でした。
陽光の園の活動に興味を持った私。後日、職員の方に連絡を取り、緑ガ丘町の施設にてお話を聞かせていただくことになりました。
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陽光の園に伺ったのは、1月のある快晴の日。
室内にやさしく陽の光が差し込み、建物全体が明るく柔らかな雰囲気に包まれていました。
エントランスを抜け、さっそく出迎えてくれたのが、廊下の壁に飾られた絵画です。
真っ白な壁にかかった、色とりどりの作品たち。
動物や人物のように具体的なものを描いた作品から、抽象的な作品まで。作り手によって、題材も画材もさまざまです。
陽光の園は、知的障がいのある方が、自宅から通い、活動をする場所。「熱海職業補導センター」として始まって以来、60年以上の歴史を持つ施設です。現在はおよそ30名、10代後半から60歳以上まで、幅広い年齢層の方が通所されています。
施設内で行われる活動は、大きく分けて三つ。
一つは、体力増進のための運動。
二つめは、ホテルで使用されるタオルの袋入れや、お菓子の箱作りといった軽作業。
そしてもう一つが、絵画の制作活動です。
▲訪問時は、利用者の皆さんが和やかな雰囲気で軽作業を行っていました。
当初は学校で習うような美術や習字を行っており、2000年頃から本格的な絵画の制作が始まったそうです。
今では週に2、3回の頻度で、全ての利用者さんが制作に参加されています。
利用者さんの多くは長時間座って作業をすることや絵を描くことに慣れていない状態からスタート。まずは「色の使い方」への関心、そして続けていくうちに、「色に対しての感性」がどんどん磨かれていくのだとか。
一つの作品を完成させるまでにかかる時間は、小さい作品であれば1〜2週間、大きいものになると2ヶ月以上。
制作指導を行う職員Tさんは、作品の制作を通じて利用者の方に、継続して何かを作り上げていく喜びを感じてもらいたい、と語ります。
確かにどの作品も、ぱっと目を惹く大胆な色使い。
お話を伺って驚いたのが、陽光の園での制作活動が、利用者の方の自由な感性に任せられているという点です。
最初にテーマを決めた後は、基本的にフリーで制作が進められます。デッサン、クレヨン、マジック、水彩、アクリル、貼り絵……多様な画材、表現方法から各々が好きなものを選んでいきます。
▲特徴は、大胆な色使いやレイアウト。自由に生み出される作品ゆえの魅力です。
▲作品のタイトルは、出来上がった作品を見て、職員の方がつけているとのこと。
お話を伺いながら、陽光の園の施設内をぐるりと見学させていただきました。
廊下や食堂など施設全体を、作品が彩っています。定期的に展示替えも行っているそうです。
▲個人的に惹かれた、熱海海上花火大会を描いたこちらの大きな作品。花火の光が夜空と海面に反射し散っていく様子が、貼り絵で見事に表現されていました。
陽光の園では4年ほど前から、絵画作品を全国の展覧会に応募されており、賞を獲得するなど熱海にとどまらず、全国から注目を集めています。
奈良県の東大寺・薬師寺で開催されている「大芸術祭」では、2023年、2024年と連続で「幡」(寺院の重要な法要の際などに掲揚される旗のこと)に陽光の園の作品が飾られました。
熱海市内では、冒頭に掲載した「今宮えびす市」で毎年、作品の販売・展示が行われています。
3年前には起雲閣で第1回目の個展を開催。
それに続き、2025年度にも個展を計画されているとのこと。開催時期・場所など、続報が楽しみですね……!
また陽光の園ではInstagramを通じて、絵画制作の様子や、作品の写真を発信されています。作品を見てみたい、という方はぜひ、陽光の園のアカウントをチェックしてみてください。
常設で作品が展示されているのは現在、陽光の園の施設内のみですが、アポイントを取ってもらえればウェルカム、ぜひ気軽に作品を見にきてほしい、と語る施設長さん。
「障害の有無にかかわらず、色々な方に作品を見ていただきたい。観光地である熱海は、非日常の空間が多い街。だからこそ、日常とはひと味ちがった感覚を楽しんでほしい。」
「そして、陽光の園の作品についてぜひ発信してほしい。アドバイスも大歓迎。アドバイスがあれば、新しい取り組みができるかもしれない。地域との共生、コミュニケーションは我々にとって大切なこと。外部からの刺激がないと単調になってしまうから。」
その言葉はどれも力強く、前向きで、今後のさらなる展開を予感させるものでした。
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今回、陽光の園でお話を伺い、特に印象的だったのは、職員の皆さんが作り手の創造性を尊重しながら、絵画の制作・展示活動を行なっているというところ。それは、太陽の光を浴びた植物が、のびのびと育つ様子に似ているようにも感じます。
今後も陽光の園ではのびやかに、個性的な作品たちが生まれていくことでしょう。そして、それらが熱海市内外、より多くの人の目に触れ、愛されていく未来を想像せずにはいられません。
それにしても、熱海はアートに触れられる機会が多いだけではなく、触れられるアートの幅もなんと広いこと!
まさに「非日常の空間が多い」熱海だからこそ育んでいくことのできる、街の特色なのかもしれません。
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Instagram「陽光の園 アートアンリミテッド」@piano12170000